五感の中で視覚の存在が余りにも大きいので、嗅覚を普段意識される方は少ないでしょうね。
ですが脳神経のメンテナンスにおいて、どうやら嗅覚は相当な実力を秘めています。
今回は文献をご紹介しながら、香りの何が凄いのか順にお話し致します。
えっ!そうだったの!と思われる方が多いと思います。
最後まで目を通して頂ければ、嗅覚やアロマに対するイメージが違ってくると思います。
そしてアロマに興味を持って頂けると嬉しいです。
アロマと脳神経の相性とは
今回のお話しのポイントは、アロマは脳神経ととっても相性が良いということです。
その内容を次の順でお話し致します。
1.五感の中で嗅覚が唯一持つ構造が有効的
2.ソムリエは脳の一部が厚くなっています
3.嗅細胞神経は再生を繰り返します
一言で言えば香りで脳神経が増える
ということで、その証明が香りの専門家であるソムリエの脳神経です。
しかもすごいところは、香りの専門家でなく高齢者でも香りで脳神経を鍛えられるということです。
結局認知症予防にもつながるのではないか、と期待されています。
嗅覚神経だけが持つ特徴的な仕組み
アロマをお勧めする一番大きな理由はここにあります。
五感の中でも唯一嗅覚信号だけが、本能をコントロールする脳内神経部位に直接届けられます。
特にポイントになるのは脳内で記憶を担当する海馬です。
この海馬は感情を担当する偏桃体と共に大脳辺縁系(だいのうへんえんけい)と呼ばれる脳内部位にあります。
この大脳辺縁系は、生物の進化の中で昔から脳内にあった部位で本能に関わります。
一方、この周りを包むように人の脳は大脳新皮質を持っています。
これが人間らしさをもたらす部位で思考に関わります。
この海馬に直接香りの信号が届けられます。
直接作用ができると言うことは、認知症など脳神経の劣化防止に役立つかもしれないと言うことです。さらには、直接作用することにより逆転も期待できる可能性もあるわけです。
ちなみに認知症は多くのケースが記憶を担当する海馬の劣化から始まります。
ですので海馬に働きかけるメリットは大きいです。
香りの専門家ソムリエの脳の特徴
香りの信号が本能の部位に直接届けられるので脳内神経の劣化を防げる可能性が高いとお話し致しました。
では実際その可能性はどの程度のものなのでしょうか。
とても興味深い検証結果があります。
香りの専門家であるソムリエの嗅内皮質や海馬の厚みが普通の人より厚いのです。
毎日のように香りをかいで訓練されているその効果が実際に表れているのです。
ロンドンのタクシードライバーの海馬が普通の人より大きい事実に通じるところがあります。
マスターソムリエと呼ばれる称号を持つソムリエは全世界で270人強おられます。
その中で13人のソムリエの脳をMRIで測定したデータがあります。
結果は嗅内皮質と呼ばれる匂いに関する情報を担当する部位や記憶を担当する海馬の一部が厚かったのです。
しかもソムリエとしての経験値が長ければ長いほどその厚みは大きくなっています。
これは13人の選ばれたソムリエと、性別と年齢をできるだけ合わせたソムリエ以外の13人との比較で確認されたデータです。
香りは脳内の刺激した神経部分を成長させたのです。
検証は以下の文献によるものです。
Structural and Functional MRI Differences in Master Sommeliers : A Plot Study on Expertise in the Brain
マスターソムリエの構造的、機能的MRIの違い:脳の専門性についてのパイロットスタディFrontiers in Neuroscience 2016年8月
嗅覚は鍛えることができます
香りの信号が記憶や感情を担当する脳内神経に直接届き、マスターソムリエの様に海馬の一部が厚くなるのは理由があります。
多くの脳内神経細胞は再生しないと考えられていますが、海馬は再生することができるのです。
そのきっかけの一つが隣り合わせにある嗅覚の脳神経から送られてくる香り信号です。
また嗅覚の入口にある嗅細胞神経も再生するのです。
それも結構すごい勢いです。
例えば人の嗅細胞神経は30日〜40日で生まれ代わります。
約一か月なので皮膚のターンオーバの様です。
ちなみに嗅神経は脳に出入りする脳神経の第一脳神経です。
この特徴のため刺激があると嗅細胞神経は成長をするのです。
しかもマスターソムリエの様に高度なスキルを持った人でなくても嗅覚神経を鍛えることができます。
カナダ・ケベック大学が中心となった検証文献があります。
ソムリエを目指す研修生12人が18か月色々な香りを嗅ぐ訓練を続け普通の人と比べると、やはり嗅内皮質の厚みが増えたそうです。
嗅内皮質は記憶や感情を担当する部位と隣り合わせで、香りの信号は嗅内皮質を通じ記憶や感情の部位にも届けられます。
訓練次第で香りに関する経験値がなくとも、この様に結果が伴うわけです。
やはり嗅覚細胞神経の再生ターンオーバがプラスに働いているのかもしれませんね。
NIH(National Institutes of Health)(米国国立衛生研究所)
National Library of Medicine
Olfactory bulb volume and cortical thickness evolve during sommelier training
嗅球の体積と皮質の厚みがソムリエの研修中に増加する
ケベック大学 2022年2月
このケベック大学の検証は、26歳前後の若い研修生を対象としています。
やはり若いうちからアロマを試さないと効果はないのでしょうか?
答えはNoです。
カリフォルニア大学が65歳以上の高齢者に対しアロマを試した臨床実験があります。
その結果は高齢者でも記憶力の改善が見られたのです。
この文献については別のコラムでご紹介致しております。
ご参考になさってください。
本能に直接香りの信号が働きかけることにより、実際にその脳神経が成長している検証結果をご紹介致しました。
これでアロマにご興味を持ってもらえたのなら嬉しく思います。
香りが他の五感と違い直接本能に働きかけ、その脳神経そのものを成長・再生させる、という検証結果が2004年のノーベル医学・生理学賞以来、注目され報告されるようになっています。
つまりアロマはメンタルに作用し癒しに繋がる、という単なる感覚的なものではなく、実際に脳神経の再生に貢献している、ということです。
しかもこの本能の部分は体の状態を一定に保つ仕組みも担当しています。
特に自律神経はその働きに欠かせない仕組みです。
香りが本能に働きかけるということは、その効果は自律神経にも及びそれが癒しにつながっています。
ぜひアロマを一度試されてください。